和紗とわざとらしく黒田画廊の近くを歩いた後、智香子はすぐに寮にもどった。
こんなことをしていったい・・・?と不思議に思った。



そして翌日、智香子は講義が終わった後に京田の仕事の手伝いのために研究室に行った。

京田は智香子と出会ったときのように、近所の川の水を採取して帰ってきたところで泥だらけの状況だった。


「ごめん・・・時間きいてなかったから、こんな恰好してて。
着替えてくるから、そこらの飲み物でも飲んでて。」


京田はあわてて着替えてきたのか、出会ったときの京田っぽくなっていて、智香子はちょっぴりホッとして言葉が自然に出てくる。


「偉くなられたのに、会ったときとやってることは同じなんですか?」


「まあね・・・。しっかしなぁ・・・君は前と同じで僕はお友達扱いだね。

これでも今は『先生』って言われている身分なんだけど。」


「あっ!そうでした。もう、京田先生って言われてるんでしたね。
助手さんとかボランティアの同志って気分が抜けてなくて・・・すみません。

私、簡単に手伝うなんて言って失礼ですね。」



「あ、そこまで気にしなくても・・・ふふっあいかわらずだねぇ。
僕はいっしょにボランティアしてたときのままの智香さんでうれしいよ。

結婚しちゃったってきいてへこんだけど、相手が学校の先生っていうのも自分もそうだからじゃないけど自分なりに納得した部分もあってね。
幸せになってくれれば、僕も自分の道を素直に進めた・・・。

だけど・・・あいつは嫌いだ。」


智香子はゾッとするような京田の声の変化にびっくりして理由をきいてみた。

京田の話によると和音が社長だった如月の工場が訴訟問題を抱えていたということだった。

お金儲けのために水質と空気を10年以上汚染し続けていて、人体への影響はまだ出ていなかったものの近隣に住む動物や渡り鳥には影響が出ていたらしく、自然に携わる有識者や自然愛護団体が抗議の声をあげたのだった。


「あの、そんな前からだったら和音さんは会社の実権は握ってなかったと思います。
きっと、それはワンマンだった社長と取締役会が勝手に・・・」


「かばうのかい?彼を・・・。いくら飾り物であっても代表なら知らないなんて通用しないと思うけど。
それに、個展のときに彼は認めていたよ。
僕に謝罪したのが、証拠でしょ。」


「そんな・・・。和音さんは親に利用されて、言うことを聞かなければ命さえも狙われて・・・最近もマンションで襲われて・・・・やっと、やっとつい最近になって会社から離れて、自分らしく生きられるようになったのに。」


「なっ・・・そんなことはきいてない。」


「でも、絵を見たならわかるでしょう?
生き物の命を奪うような人があんな絵は描けないと思いませんか。」


京田は智香子にパソコンでの入力作業だけを指示すると、しばらく黙りこんで仕事を進めた。

1時間ほどして智香子が作業を済ませる様子をみて、京田はいつもの様子にもどって

「ありがとう、今日はこれで終わりでいいよ。
・・・・・あのさ、次は休日にハイキングでも行けないかな?
いや、べつに映画見に行くとか、買い物でもいいんだけど、仕事抜きでね・・・。」


「それってデートのお誘いですか?」


「あっ・・・!まぁ。うん。」


「わかりました。学校とバイトの予定を確かめてまた連絡します。」