菜の花の君へ

和音は少し照れたような様子で話をきりだした。
申し訳なさそうな表情もしていて、智香子は少し驚いた。

以前なら、出席するように!などと命令されているかのような口調が多かったのに、これも別居効果なのだろうか?と思ったほど。



「私が出てもいいなら参加しますけど・・・パーティってやっぱりドレスとかいるんですよね。どうしよう・・・。」


「もちろん、今から買い出しだ!だめか?
門限までには間に合うと思うし・・・。」



「やったぁ!和音さんのおごりなら、気合いれてお買いものしちゃいますよ。」


「おいおい、前と違って収入は減ってるんだからたくさんはたかるなよ。
あるのは融通のきく時間くらいだからな。あはは~」


「十分です!和音さんとお店に洋服を見に出かけるなんて初めてですよね。
前は着るものは決まってたし。うふふっ・・・デートみたい。

和音さんスーツじゃないから今日は歩きやすそう。」



「はぁ?もしかして、智香は僕がスーツ姿だとおっさんぽくて横を歩くのが嫌だっていうのか?」



「いえ、決してそんなことはないですよ。
逆に、和音さんがパリッとスーツ姿だとね、私がいかにもお子様に見えちゃうだろうなって話です。」



「そんなことは・・・。はぁ・・・ちょっと若作りしなきゃだめかなぁ。」


「何もしなくっても和音さんは素敵ですよ。
街を歩くだけで女の人は振り返って見ますから。
賭けてもいいですよ。

会社の中を歩いただけでも圧倒的な注目度だったのに気がつかなかったんですか?」


「そりゃ、見られるのはわかってるけど・・・この前の田所くんも然りで、女は怖いな。
当分、智香以外の女とは落ち着いて話もできないよ。」



「私は免疫があるっていいたいんですか?もう・・・。」


智香子はなんとなく、こういう会話をしながらいっしょに出かけると和之と買い物に出たことを思い出した。

生活に必要な小さな出来事がこんなに楽しく思えたり、懐かしかったりする。


結局、和音にパーティ用のドレスと予備のドレス。そして、普段着やアクセサリーまでたくさん買ってもらって寮へともどった智香子は寮の学生たちからあれこれと質問攻めされることになってしまった。


さすが女子寮というのか、誰といっしょだったのかも情報がかけめぐる。


「ねえねえ、あのかっこいいお方は彼氏?」


「い、いえ。家族っていうか・・・その・・・。」


成り行き上、智香子は中務和音の説明と個展がある話やパーティのことなどめんどくさい説明をするはめになってしまった。


中には如月織物の代表だったことも知っていた学生もいて、智香子がその家族なのだと知ると、出会うきっかけを作ってほしいようなことをいう学生もいた。


「たしか会社をお辞めになられて芸術家になったとお聞きしましたけど、個展なんてさすがですわね。
以前、父とご挨拶に伺ったことがありましたけど、クールで頭がよくて少し微笑んだ表情がとても素敵でしたわ。」


和音を過去に見たことのある学生たちは、智香子が寮での生活をしていることに和音が真剣に嫁さがしをしているのではないかと勘繰ってしまったほどその日は和音の話題でもちきりになってしまった。