† 独節



かつて、大きな存在があったという。

その存在は、悪をなし、善を謳う者に討たれた。

しかし、この悪を葬り去るには、核があまりにも大きすぎたそうだ。

大きすぎるものを、そのまま輪廻転生させるには、次代の器に負担がかかる。

世を生み出した神というものはそう判断し、対処した。

その存在は、九つの尾を持っている。

そのひとつひとつが、すさまじい力を有している。

ならば、九つを散り散りにしてしまえばいいと。

九尾を持した金の獣は、そして現代、九つの器に入れられている。

本来なら、厳重な鍵を施されたそれは、目覚めることはない。

しかし不意に、あるらしい。

まったくの無意識に、本質へ至る現象が。

本質さえも理解する、存在が。

そのひとりが、小名木和幸。

この僕、桜庭紅蓮を止めた、なにもかもを達観しえる人間だった。