「が、き……?」

ぶるりと、桜庭の体が、蛇が震えた。

(いけない……っ)

と思った時には、遅い。

「君なんかに……!」

桜庭の蛇はすでに大口を開き――しかし、止まった。

小名木和幸の、眼前で。

少年の首ごとき、丸飲みにできるだけのアギトを開いたまま。

ピタリと、止まっていた。

小名木和幸が笑う。

「どうした、委員長。ぶちキレて、俺を食えばいいだろうが。食え。どうした。それが、やりたいことなんだろう? あん? 傲慢くん?」

「うる、さい……」

「お前が俺を食うのは簡単だ。あの時、教室でほかの連中を食った時と、全然変わりやしない。まったく同じだ。

だけど、そのまったく同じ対象からここまで言われて、お前はどうしたい? 俺を丸飲みにするだけで満足か? 違う。お前はそんなもんじゃ満足しない。だから、食えない。違うか?」

「……君、は……知ったような、口を利くね……」

「いや。ただそう見えるだけだ」

わなわなと蛇を、腕を、肩を、体を、首を顔を唇を震わせる桜庭を見て、上野は感得していた。