† 第十一節



上野楓は、心底驚いた。

小名木和幸が、自分の横からさらに進み出て、桜庭の前に対峙したのである。

「お、小名木くんっ、戻ってください! 冗談じゃすみません!!」

と忠告を投げかけるも、

「上野さん、ちょっと黙っててくれ」

彼の瞳は、冷静だった。

一瞬、圧倒される。

その感覚に、

(まさか、†……)

区長が言っていたことを、思い出す。予感と推測が、飛び交う。

よもやこのタイミングで、小名木和幸は†に触れてしまったのだろうか。

その本質に飲み込まれてしまったのだろうか。

ならば、あるいは、粛正が必要か。

彼の本質はなにか。

区長に褒められた頭が、急速に――

「別に俺はなんともないし、アンタが心配してるようなこともないから、本当に黙ってろよ」

「っ」

――回転していくのを、つまずかせられた。

気付けば、すでに小名木和幸は、桜庭から三メートルない距離に立っている。

自分よりも、桜庭のほうに近い。

上野は、行動を制止させられる。