「〝十剣翼〟!」

拍手でも送ろうかと思っていた時、上野が自らの得物を呼びつける。

まさに刹那、まばたきも許さない速さで、飛び去った九本の剣が彼女のもとに帰来する。

そして少女の背中で、刃を下に、並んだ。

まるで柄を軸に、扇子を開いたような形で。

それが翼であると気付くのに、五秒とかからなかった。

少女の体が、羽ばたかない翼によって、舞い上がっていく。

十本に抗する十頭、すべての蛇を瞬速再生させた桜庭が、空を睨んだ。

その瞳に、憎悪と、嫉妬の念を和幸は垣間見る。

「空を飛ぶなんて、僕にできないことを……ますます君が嫌いだ、上野さん!!」

子供じみた怒りを発し、桜庭も跳躍する。

その脚力も、おそらく彼が公言してやまない、超常のもの。

大蛇を十頭引き連れた巨大な人影が、夜空に舞い上がった。

「おー、跳んだ跳んだ」

と、和幸は、今度こそ拍手する。

無論、そんな乾いた音など、二人には聞こえていない。