† 第九節



この世界の一切は押し並べて変動し、常に留まることを知らない。

それは人も同じ。己の存在と理想を天秤のようなもので計り、より理想へ、より現実へ導いていく。

しかし、†はそうはいかない。根本的本質は存在を飲み込み、究極的終着点へと導く。

終着点とはすなわち不変の始まり。

その始まりが、もしも積み重なったなら。

世界は、回ることを、生きることを、やめてしまう。

そんな恐ろしいことに、耐えられない。

だから、上野は振るう。

  ジッケンヨク
「〝十 剣 翼〟!!」

黒い、一振十手の剣を。

呼び掛けられただけで、自分の周囲で扇状になっていた剣が、すべて手元の一本に吸収される。

「桜庭紅蓮!」

と、叫ばずにはいられなかった。

同時に、突進から一気、右から左へ剣を振り抜く。

たった一本にしか見えない刀身の軌跡に、十の刃が連続して走る。

まるで、扇が振るわれるような、残像。一振十手。

一は十であり、十が一である剣の、能力。

自らが、自らをなすために生み出した、武器。

〝十剣翼〟。