† 第七節



上野楓は、ポケットの中で鳴っているケータイを取り出す。

鞄の中とポケットの中、ふたつのケータイを持っているが、今鳴っているのは教会の連絡用である。

シルバーの、ストラップもなにもついていない、ただ『機能』だけ求められたそれを、耳に当てる。

「はい、第十七番、上野です」

『僕だよ』

と、阿吽の返事。

相手はわかっているし、これは姑息な詐欺の一種でもない。

だから上野は、短兵急に問い質す。

「なんですか、区長」

『うん。首尾はどうかなとね』

「良好です。桜庭紅蓮が思ったより逃走が上手かったこと以外、問題はありません。小名木和幸も、『事実』の理解には至ったみたいです」

『へぇ、彼、頭いいんだ?』

「それほどは」

さくっと切り捨てた上野に、相手は笑う。

区長は自分と同年代くらいだろうかと思う。しかし、まだみずみずしい声調だというのに、その端々には枯れ葉が囀ずるような、くたびれた響きがある。