† 第六節



帰宅した母を迎える頃には、すでに夜中の九時を回っていることが多い。

ビニール袋に、勤め先からもらって来たまかないをいくらか、近所付き合いでお裾分けしてもらったなにかをいくらか、重たそうに持って帰ってくる。

「持つよ」

「あんがと」

と、出迎えの一言はおかえりよりも、そんな言葉。

靴を脱ぐのに手間取っている母は、痩せ細っている顔に笑みを浮かべる。

上野は、母が帰宅するほんの十分ほど前にケータイへ入電があり、もう時間ですね、とぼやいて帰った。

どうやら、この近辺、母の動向、すべて監視されているらしい。

彼女が所属している教会というものの組織力を、垣間見た気がした。

母の持って帰ってきた品々を、ちゃぶ台の上に並べる。

その中、いたって当たり前のように肉料理を見つける。

あんな惨劇、血肉の水辺を目の当たりにしていながら、しかし、マンガやテレビドラマのように、特別吐き気は覚えなかった。

いやそれどころか、こんな風に『なにも感じなかった』と気付くのにすら、十数秒を要していた。