† 第五節



和幸は母と二人暮らしである。

父は幼少時代に他界し、今はパートをいくつも掛け持ちしている母に養ってもらっている。

だから和幸は、高校を卒業したら就職するつもりである。もっとも母からは、できるなら大学へ行けと言われているが。

少なくとも、親不孝だけはするまいと思っている和幸は、帰宅してそうそう、母親の裁縫箱を引っ張り出した。

破れてしまった制服を、自力で修繕するつもりである。

警察に事情聴取をされ、あんな光景を見た人間が、家に帰ってすることが裁縫とはつくづく笑えるが、それでも和幸は、つくつくと針を滑らせていく。

父がなくなってから裕福な生活など疎遠になったため、ある程度のものは直しに直して使い回してきた。手先も自然、器用になっている。

ちくちくと、慣れた手付きで裁縫をしていく。質実剛健にして倹約家な母がいるため、端切れには困らない。

シャツの破れた部分を修繕するのに、男手ながら二十分とかからなかった。