† 第四節



破れた服を、周囲の人間どもが奇異の目で見てくる。

汚らわしい目を向けるなと思い、桜庭はサッと路地へ身を滑り込ませた。

壁に寄りかかり、自らを抱く。肘から先が、少し痺れた。

腕に走る痛みが本物ということは、腕が蛇になっていたのも、事実だということ。

つまり自分はついに、人間の境界線を超越した。

その喜びに、桜庭紅蓮はすばらしく感じ入った。

自分は、なにをしたか。

自分は、なにをできたか。

まず、腕を大蛇にできた。意思ひとつで一瞬のうちに、切断されても再生させられる、化け物の腕、あるいは首を手に入れた。

今も、あの時教室で飲み込んだ級友の味も、肉の感覚も、『自分』の中になある。

超越者たる自分は、贅沢にも、人間を四半秒で吸収できる。

自分の意思ひとつで変幻自在な、大蛇の口で。

すばらしい。すばらしい能力に目覚めた……と思う。

が、これを喜ぶには、まだ手放しというわけにはいかないらしい。