ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】



「那智、右に飛べっ!」

 弟が一瞬の隙を突いたその瞬間が、好機到来と判断した俺は素早く立ち上がると、那智の頭目掛けて右足を蹴り上げる。
 紙一重に右横へ体を反らした那智のおかげで、俺のつま先は鳥井の握る拳銃を狙うことに成功。

 見事、鳥井の手から拳銃がすっぽ抜けた。

 素っ頓狂な声を上げる鳥井の腹部に仕返しの蹴りをお見舞いすると、宙に浮いた拳銃を無我夢中で掴んだ。
 遺憾なことに鳥井の腹部から鉄にぶつかるような音がしたから、俺の蹴りは殆ど意味をなしていない。が、拳銃をもぎ取った効果は絶大だろう。

「この化け物兄弟。揃いも揃って、怯えずに向かって来やがって」

 舌打ちを鳴らす鳥井と、銃口を構える俺、どちらが行動が早かったか。
 答えはどちらも行動が遅かった。

 それはなぜか、駐車場に新たな役者が登場したせいだ。

 耳をつんざくような急ブレーキ音といっしょに、二台のワゴン車の姿が見えた。かと思ったら、扉が開いて銃声がそこら中に響き渡る。
 銃弾の標的はもちろん俺達。
 それらは缶スプレーをこっちに放り投げると、射撃の的を狙うような仕草で、こっちに拳銃を向けてくる。おいおいここは刑事ドラマの中か? それとも映画の撮影会場か? 勘弁しろ!

 近くでは運転席に乗り込もうとしていた鳥井の仲間らしき男が撃たれ、その場に倒れた。
 顔を押さえていた福島は、眉間に風穴を開けられた死体を直視したようで、悲鳴にならない悲鳴を上げている。それを目にした鳥井が運転席側に向かうために走り出す。

「那智っ!」

 拳銃を鳥井の背中に撃ち込む余裕はなかった。

 俺は弟の下へ急いで走る。
 タッチの差で缶スプレーから白い煙が噴射され、一帯は煙幕に包まれた。
 ただの煙幕じゃないことは、目の痛みと生理的に流れる涙で把握した。なんっつー痛みだ。一分一秒も目があけられねぇ。
 それでも俺は無理やり目をこじ開けると、死に物狂いで那智の体を手探りで掴み、小さな体躯を車の後部席に押し込んだ。息をつく間もなく、背後に気配を感じた俺は後部席のドアを閉めて、煙の向こうの人間を力の限り蹴り飛ばす。

 銃声と車のエンジン音が聞こえると、助手席のドアを開けて身を隠した。
 運転席に鳥井が乗り込み、遅れて福島が後部席に逃げ込んだ。
 ワゴン車の追撃を逃れるために車は発進。総合病院の駐車場から猛スピードで駆けていく。その際、向こうの煙幕を逆手に取り、それにまぎれてワゴン車の一台に突撃して相手を怯ませた。
 運転手はドライビングテクニックがご自慢なのか、車道に出ると、進行方向を逆走する腕前を披露。おかげで俺達は座席にしがみつく羽目になった。

「那智っ、ついでに福島。座席の下にもぐれっ。事故ったら、まじ洒落にならねえっ」
「ついでは余計よ。あんたは?」
「運転手のドライビングテクニックを、ぜひぜひ間近で見ようと思ってな」
「兄さま。鳥井さんは危険です。いっしょにこっちへ」

 那智の気持ちに応えたいところだが、下手に鳥井から目を離した方がまずい。何をしでかすか分からねえ。


「おいそこ。無駄話してると、舌噛むぜ――急カーブにはご注意ってな」