「同じだよ、陸くん。陸くんに甘えたのも、陸くんの前ならそのままでいられることも…同じ。
樹先輩の前では無理してた。…大人びているように見せかけてた。物分かりが良くて気が利いて、我慢強くて優しい、そんな自分を作ってた。…やっぱり、好きになってもらいたかったから。
でも、…そういうのは違うんだよね、多分。そんな風にしても苦しいだけだし、辛いだけ。好きだったけど、でもお別れして楽になった部分もあったんだ、本当はね。」

「あー…ちょっと分かるなぁ、それ。」

「うん。…それにね、今現在進行形で甘えてるのは私の方だよ。
だからそこはごめんな…。」

「甘えてくれていいよ、全然。俺はそれを嬉しいと思っちゃってるんだから。」

「え…?」


陸くんが優しく微笑む。不意に陸くんの暖かい右手の掌が私の頬に触れた。


「嬉しいんだよ、海央ちゃんに会いたいって思われることも言われることも。…俺も会いたいから。こうやって傍にいたいから。」


降り注ぐ真っすぐな言葉。真っすぐな瞳に映る自分が見える。陸くんは今、私に優しい笑みを向けてくれている。


―――樹先輩が美森先輩に浮かべる笑顔みたいだ―――


ふと、そんなことを思う。…欲しくて、でも手に入らなかったもの。
それが今、こんなに近くにある。それがとても…


「嬉しい…。」

「え?」

「陸くんにそう言ってもらえるの…嬉しい!」

「っ…だから…俺の意図してること、全然伝わってないなこれ…。」

「え…?」


はぁーと盛大な溜め息が陸くんの口から漏れた。
…つ、伝わってるのに、ちゃんと。