お姫様の作り方

* * *


あたしが密かに思っていた神谷洸王子様説は瞬く間に広がった。予想通りの展開だ。


「隣のクラスの転入生が〝王子様〟って噂じゃん。」

「雪姫見たー?」

「…見てないけど。」


ここで会ってもう話もしてますなんて言ったらその先が面倒くさい。


「って雪姫、今お腹なった?」

「なった。」

「まだ午前中なんだけど?」

「だってお腹空くんだもん。」

「ったく雪姫は色気より食い気なんだもん!せっかく見た目がつり合う王子様の登場なのに!」

「余計なお世話ですー!」


見た目はってなんだ見た目はって。そもそも天然で王子様な神谷洸と素がただの大食い、愛想なしなあたしがつり合うはずもない。そこのところをあたしの周囲は盛大に勘違いしている。


「雪姫!まったくあんたは自分の容姿を無駄にしてる!」

「…なに明日美(アスミ)、いきなりどうしたの?」

「あたしも明日美に同意!」

「…ちょ、なに、ほんと…杏里(アンリ)まで…。」

「雪姫はもうちょっと物言いとか柔らかくしたらほんとのほんとに白雪姫なんだよ!?王子様も登場したわけだし、恋に発展しちゃうかもしんないでしょ?」

「…ごめん、なんで素面でそんなこと言えるのかが分かんない。」

「あ、ちょっとどこ行くのよ雪姫!」

「頭痛くなってきたから保健室ー!」

「仮病ー!」


あたしは右手にお昼用のパンを持って教室の外へ飛び出した。
この手の話は本当に勘弁してほしい。あたしは別に姫なんて目指してない。目指したい奴が勝手に目指せばいい。つり合うとかつり合わないとかもどうでもいいし、その先に待ち構えるであろう恋にも興味がない。


「…あたしには関係ない、恋とか。」


こういう時の避難場所は一つだ。