お姫様の作り方

海央ちゃんの座るベンチに俺も腰掛ける。
この位置はこの前とは逆だ。


「…7時過ぎてる。別に俺は門限とか知らないし、一般的な高校生にどのくらいの時間が許されてるのかも知らないけど…。何の連絡もなしにこの時間まで帰らないと、海央ちゃんのお母さんが心配するよ。」


…俺もね、とは何だか気恥かしくて言えない。だから全ておばさんに背負ってもらう。


「ごめんなさい。」


こんな風に責めるつもりはなかったのに、彼女に謝らせてばかりいる。
…違う、そうじゃない。心配していた想いが妙な方向に空回る。


ふっと、公園の外灯に照らされた海央ちゃんの赤い頬に手を伸ばす。その頬に触れると、そのあまりの冷たさに驚く。


「冷た!いつからここにいたの!」

「…あんまり覚えてない。何時からとか。…放課後…。」

「放課後からずっと?」

「…うん。」

「…どうしたの。何があったの?」


自然と出た言葉は空回りから少し解放されたものだった。


「陸くんに…。」

「俺に?」


少し間を置いて、俯いたまま彼女は答える。


「陸くんに会いたかった。…今日。でも私…。」


それ以上の言葉は、俺のコートが飲み込んだ。
〝会いたかった〟のその一言が俺の中のストッパーを壊し、気付けば俺は彼女の冷え切った身体をぎゅっと抱きしめていた。