お姫様の作り方

階段を上り、部屋のドアを開ける。電気を点けなくては暗い。


パチっと電気を点け、ふと自分の手を見つめる。
―――思い出すのは、小さなあの手。


「…はぁー…昔と全然違うわ。つーか海央ちゃん、優しすぎるでしょ。」


痛み分けだなんていう言葉に乗っかって、…ただ、その優しさに甘える俺に気付きもしないで、ただ温もりを分けてくれる。
その手の小ささに一瞬驚いたことも、きっと彼女は気付いていない。


「〝泡になり損ねた人魚姫〟…か…。」


咄嗟に出たたとえにしてはかなり良い出来だと言える。
泡になり損ねた人魚姫に、…同じく、人魚…王子ってガラじゃないことは分かってる。でも、さすがに〝姫〟じゃない。性別的にも。


「海央ちゃんが泡なんかにならなくて本当に良かったよ。」


…良かった。今日、会えて。そしてあの日に会えて。


君の涙に触れたことも、今日の傷に触れられたことも…良かったと言える。





「って何考えてんだ、俺は。失恋したばっかだぞ、ったく。」





今はまだ、ざわつく心をぐっと抑える。
覚悟ができてたとはいえ、悲しさが消えるわけでもない。
だから今は甘んじて傷付こう。でも…前を向く準備はできている。
それは確かに、〝彼女〟のおかげだ。