お姫様の作り方

【陸side】


「え?」


…言った言葉は、彼女の耳に届かなかったみたいだ。でも、それでいい。


『名残惜しいな』とあまりにも自然に口から出た。
離れたくないと思ってしまった。だって彼女は、温かいから。


正直に言えば、振られる予感はあったんだ。分かっていた、それこそ彼女のように。
だから、〝痛み分け〟は正確に言えば正しくはない。
俺は覚悟をしていた。近いうちに終わる、と。だから泣けもしないのだろう。どこか冷めた気持ちもあったから。


ただ、それでもなお、やはりどこか寂しい、悲しいと思ってしまうのは長い時間を共にしたからというのも一因としてはあると思っている。
当たり前みたいに居た人がいなくなること。そして、〝もうすでに他の誰かのものになってしまった〟ということがただただ俺をこんな気持ちにさせている。悲しくて、どこか寂しくて…結局のところ情けない気持ちでいっぱいなんだ。


海央ちゃんと別れ、玄関のドアを開けた。
お、珍しい。我が弟がこの時間帯にいるなんて。


「由貴、いるのー?」

「いるけど?いちゃ悪い?」

「いやいや、そうじゃなくて。珍しいなって思っただけだよ。」

「今日はちょっと休息日。」

「調整でもするの?」

「まーな。」

「喉の?」

「…鋭いな、兄貴。」

「声、少しかすれてるよ。風邪ひきやすい時期だし気をつけないと。」

「わーってるよ。」


弟と少し会話をして部屋に向かう。弟はリビングでギターの調整も行うんだろう。俺は詳しくないからよく分からないけれど。