お姫様の作り方

「さてっ、帰ろうか。」

「…うん。」


すっと差し出されたのは、陸くんの大きくて優しい…手。


「え?」

「痛み分けしよう。」

「?」


陸くんの言葉の意味がよく分からなくて首を傾げると、陸くんがクスッと笑って私の手を取った。


「今は多分俺の方がちょっと痛みが多いから、…痛み、少しもらってよ。今度、海央ちゃんが痛い時には俺が痛みを貰うから。」

「…いい、よ。」

「帰ろう。」

「うん…。」


ぎゅっと私の手を握る陸くんの手はぬるい。…何なんだろう、この気持ちは。何だかふわふわして落ち着かなくて…でも、それだけじゃなくて。


手を握るのは…一体いつぶりなんだろう。
ものすごく前のことだ、それこそ最後に手を繋いだのは。子どもの頃の帰り道に陸くんは、私と由貴くんの手を引いて帰ってくれた。
―――当たり前だけど、あの頃の手とは違う。陸くんの手も、私の手も。


「…陸くん。」

「ん?」

「陸くんの手、大きいね。」

「海央ちゃんが小さいんだよ。」

「そんなことはないよっ!標準だよ!」

「標準ってことは、女子は小さいでしょう、男子よりはずっとね。」


サラサラと冷たい風に靡く、陸くんのちょっと明るい茶色の髪が少しだけ眩しく見える。
左隣に陸くんを感じながら、それ以上は話すことなく家に着いた。
家に着いた瞬間に手はゆっくりと離れる。


「今日はありがとう。…助かった。」

「ううん。お互い様だよ。」

「…海央ちゃんは、強いね。」

「…陸くんがいてくれたから、…強く在れた。」

「そっか。じゃあ俺、役に立てたんだね。」

「もちろんだよ。」

「……しいな。」

「え?」

「何でもないよ。じゃあ、またね。」

「うん。また…。」


結局、陸くんの言葉が少しだけ聞き取れないまま、そこで別れた。
もう一度強く、冷たい風が吹いた。