お姫様の作り方

「…泡になりたいって…私、思ったの。」

「人魚姫?」

「うん。だって人魚姫は…悲しかったけど、でも一番悲しくなることは避けられたから。」

「一番…悲しくなること?」


…そう。一番悲しいのは…。


「幸せな王子様の姿を触れられそうで触れられない距離で見続けることでしょ?」

「…確かに。生殺しもいいところだね。」

「今、私…〝人魚姫がもし泡にならなかったら〟を体験してる所なんだから。」

「え、なにその体験。どういうこと?」


ちょっとだけ長くなるから、私は陸くんの隣に座った。


「人魚姫は泡になってしまった。だから人魚姫のストーリーはあそこでおしまい。王子様がどんな生活を送ったのか分からない。」

「そうだね。」

「でも、私は…泡になれなかった。だから、王子様のその後を見てる。」

「……それ、は…俺よりも辛いことかもしれない。
ある意味俺は泡だよ。…彼女が新しい誰かと一緒に笑ってる姿を見ることは…多分ない。」

「じゃあ陸くんが人魚姫だ!」

「うわー…男なのに姫とか言われても嬉しくねー。」

「あはは。ごめんね!お姫様だなんて思ってないよ。」

「知ってるよ。…励まそうとしてくれてることも、ちゃんと分かってるよ。ありがとう。」


小さく笑った陸くんの手が私の頭の上に乗った。そしてこの前よりも少し弱い力でくしゃくしゃと撫でてくれた。