お姫様の作り方

「…海央ちゃんと違って俺が振られたんだけどね。」

「彼女…さん？」

「うん。遠恋中だったんだけど、…向こうから離れていったくせに耐えられないだなんて勝手だよなぁ…。」

「遠恋…。」


遠恋なんてしたことがないから、離れてしまったときにどんな気持ちになるのかなんて想像することしかできない。だから、彼女さんが勝手なのかも分からないし、陸くんの痛みや辛さもきっと…私には分からない。
…でも、今この場でたった一つ、分かることはある。


「勝手だって思っても…嫌いじゃない…んだよ…ね、今も。」


私の言葉に陸くんは空を見上げていたその目をゆっくりと下ろす。
俯いたまま、きっとギリギリ私に聞こえるくらいの声で陸くんが言葉を吐き出す。


「…はぁー…なんで当てちゃうかな…もう。」


弱弱しい声。…それでも泣かない陸くんは…強い。
私は強くないから、陸くんみたいに悲しさとかそういう色んな気持ちをそのまま受け止めることが…できない。でも…


「…私も、同じ…だから。」

「え？」


陸くんが顔を上げて私を見上げる。その目は1週間前に見たものとは比べ物にならないくらい弱っている。


「好きになる気がないなら…付き合うなんて言わないでくれれば良かったとか、先輩は勝手だとか…色んなこと思ってもでも結局…好きなの。そんな簡単に嫌いになんか…なれないの。
…だから、陸くんも同じかなって。そこだけは。」


〝簡単に嫌いになんてなれない〟
その想いだけは、多分共通しているのだと思う。だからこんなに苦しくて、…痛い。届かない想いを抱えていることは。


「…同じ。…簡単に嫌いになれたら良かった。」


そう言う陸くんの言葉が嘘だということも、私には分かる。
…だって嫌いになりたいなんて思ってないんだ、少しも。
それは私も、…そして、泡になってしまった人魚姫も、同じ。