お姫様の作り方

陸くんの言う通り、精一杯の強がりだった。
物分かりの良い自分であろうとした。…せめて、最後に樹先輩の瞳に映る自分は〝良い人間〟でありたいと思った。


『樹先輩は私に告白されたその時にはもう…違う人を好きだったんじゃないですか?』


好きだと告白した時以外で初めてぶつけた本音。
…樹先輩の答えが分かっていたからこそ、言わないでいた問い。だからこれを言ったとき、心なしか声が震えた。


『樹先輩に好きな人がいて、しかも樹先輩は本当にその人しか眼中にないってことがよーく分かりました。
…不毛な恋、です。…本当はちょっとだけ、最初から…分かってたんです。』


よく、…分かってた。分かってたの。心はないことも、あの笑顔が私に向けられることがないことも。


でも…嫌いにはなれなかった。最後まで。
顔を上げない私に気付いて、あえて見ないでくれようとしたことも。
『ごめん』とは言わないでくれたことも。
その優しさが、嬉しくて…痛い。


「精一杯の強がり…だった…。」

「うん。偉い。…よく、頑張った。」


陸くんの手が私の頭を優しく撫でる。
…陸くんがいてくれて良かった。陸くんに拾ってもらえて良かった。行き場のない想いも、涙も、頑張ったことも。


「…ありがとう、陸くん。」

「うん。」


それ以上、陸くんは何も言わずにただ黙って頭を撫でてくれた。
時折涙は零れ落ちたけど、悲しいだけじゃなかった。

…嬉しかった。
頑張ったことに気付いてもらえたことも、強がりを見抜いてくれたことも。


陸くんの言葉の一つ一つが、優しくて、…嬉しかった。