「え、なに?俺、なんかしちゃった?」

「う、ううん…違う…違うの…。陸くん、何も悪くないの…。」

「…な、ならいいって…良くない、か。海央ちゃん、泣いてるもんね。」


テーブルを挟んで向かいに座っていた陸くんが、すっと私の横に腰を下ろした。
ポンポンと軽く頭を撫でてくれるその手はやっぱり温かい。


「何があったかよく分かんないけどよしよーし。泣いてもいいけど目はごしごしやらないこと。はい、これ使って。」


手渡されたのはふわふわのタオル。それを目元にあてるとすっと涙を吸い込んだ。


「あり…がと…。」

「うん。ゆっくりでいいから、…ひとまず泣けるだけ泣いちゃおうか。付き合うよ。」

「…うん。」


それ以上、言葉にならなかった。
学校の屋上であれだけ泣いたというのに、これでもかというくらいに涙が出てきて零れて、タオルに吸い込まれていく。


それに呆れるでも慰めるでもなく、ただ黙って、陸くんは隣にいてくれた。
頭を撫でてくれる手がゆっくりと背中に回って、ポンポンとあやすように優しくリズムを刻んでくれる。


30分ほど泣いて、ようやく涙が止まってくれた。
タオルはもうぐっしょりだ。


「…落ち着いた、かな?」

「…ごめん…なさい。タオル洗って返す…。」

「いいよいいよ。元々涙を拭うために渡したんだから。
それより海央ちゃんが泣き止んでくれたことの方が今は大事でしょ?」

「…ありがとう…。」

「いいよ。
さて、お次はどうしようか?話、聞いた方が良ければ聞くけど…。」


…どうしよう。話しても…もうどうにもならない話ではある。それに…


「楽しい話じゃ…ない…よ…。」

「そんなの海央ちゃんの顔見れば分かるよ。」

「…そっか。」


しばらくの沈黙。そしてその沈黙を破ったのは私だった。





「…失恋、しちゃったの。」