* * *


「コート脱いで座って。コートはどこか適当に置いておいていいから。」

「う…うん。ありがとう…ございます。」

「どうして敬語?いいよ、普通の話し方で。あ、何飲む?紅茶でいい?」

「あ…うん。ありがとう。」


陸くん、…空路陸(クウロリク)くんは大学2年生。
陸くんとその弟である由貴(ユウキ)くんは私の家のお隣さんで、小さい頃はよく遊んでもらっていた。今は由貴くんとも違う学校になってしまったし、陸くんは大学だしということであまり顔を合わせていなかったけど…。


「はい。ひとまずストレートだけど、お好みでミルクと砂糖あるよ。」

「ストレートで…大丈夫。」

「まずはこれ飲んで落ち着きな?」

「…あり…がとう…。」


涙はいつの間にか止まっていた。でも目元がなんとなく腫れぼったくて重い。
そこをあえて突っ込まずに、あくまで自然体で接してくれる陸くんの優しさが温かく心にしみる。


「…あったかい。」

「少し、落ち着いた?」

「うん…。陸くん、ありがとう。」

「いえいえ、どういたしまして。」


上手く笑えたかは自信がないけれど、私の声に対して返って来た陸くんの表情は穏やかな笑顔だった。その笑顔が…重なる、先輩に。


「っ…。」

「え、海央ちゃん?」


私に向けられることのなかった先輩の笑顔に…陸くんの笑顔が重なった。
だから思わず、涙が零れた。