「樹のちゅーも…気持ち…よかった…。だからちゅーしてくれても…眠れ…そう…。」

「今それ言うな。我慢してんだから。」

「…我慢しなくて…いい…よ…?」

「だーから!キスだけで我慢してやってんだって。それ以上は今日無理っつっただろお前。
そう言ったのお前だからな!」

「…ごめん。」

「いいよ。つーか無理して喋んな。眠れよ。目の下のクマ、気になってたんだ。」

「…うん。おや…すみ…。」


それ以上、美森の方から言葉が発せられることは無かった。
すーすーという穏やかな寝息だけがただ、聞こえてきた。





「…ったく、隙があんだかないんだか。」


穏やかなその寝顔にそっと話し掛ける。熟睡な美森はこの程度の声で目を覚ますはずがない。


「ったく…先にキスされるとか結構不覚。」


何の躊躇いもなく本当に〝奪う〟ようにキスしやがって…。
でもまぁ、ワガママ姫に付き合えるのは俺だけだし、そんな風に付き合っていくことも悪くないなんて思っちゃってる自分がいるのも確かだ。


黄金色の髪をかき上げ、その額にそっとキスを落とす。
そして、寝息が零れる唇をそっとなぞった。


「…起こしたくなったら長めにキス、かな。」


ここは〝眠り姫〟の物語通りに話を進めよう。
眠り姫を目覚めさせるのは王子様のキスで。


「すーぐ起こしたくなりそうで…まいったな。今起こしたら全然眠れなかったって怒りそうだし。」

「ん…いつ…き…。」

「名前呼ぶな名前。起こすぞ…キスで。」


*fin*