「王子様がキス魔だなんて、白雪姫もびっくりだわ。」

「死体愛好家の王子様の方がびっくりすると思いますが?」

「え、洸にそんな趣味が?」

「のはずないでしょう。犯罪です。」

「だ、だよね…びっくりした。」

「原作の王子が、ですよ。確か初版のグリム童話ではだったかと思いますが。それに、白雪姫は王子のキスで目覚めるわけではなく、死体愛好家の王子が死体でいいから引き取りたいといい、それを運ぼうとした家来が躓いた拍子に白雪姫の口からリンゴが落ちたというラストですよ。」

「えぇーなにそれ…夢も希望もないんだけど…。」

「死体愛好家とキス愛好家ならばキス愛好家の方が良くないですか?」

「な、なんでその二択なの!」

「王子様王子様と言うからですよ。それに正確に言えば僕はキス魔じゃないですし。」

「だってさっきあんなに…!」

「相手は選びます。雪姫以外は有り得ない。雪姫があまりに可愛いからしたいんですよ。本物の白雪姫なんてどうでもいいんです。興味ありません。」


真顔でそんなこと言わなくても…とも思うけど、そこまで真っすぐなのが洸という人間であることは分かっている。そういう洸にだから、あたしはこうして真っすぐ向き合えた。


「…そんなにムキにならなくても分かってるよ。
それより、リンゴ、もうちょっと食べない?…リンゴをたらふく食べれたらなぁって思うくらいリンゴ大好きなはずなんだけど…。なんか色んな事が一気にありすぎてお腹いっぱい…。」

「あ、くれるのなら貰います。あ、じゃあ食べさせてください!」

「な、なんでよ!全部食べちゃっていいってば!」

「さっきは僕が雪姫の手をお借りしましたからね。ください!」

「あー…もう!分かった!」


多分、こういうところはしつこい、というか我は通すタイプなんだとも思う。そう思ってあたしはリンゴを洸の口元に運んだ。シャリっという音がしたから、多分上手く食べたんだろう。


「…じゃあ少し、あげます。」

「んっ!?」


再び塞がれた唇は、塞いだままでいることを許されなかった。
じわりじわりと広がるリンゴの甘みと酸味が、さっきとは違うキスであることをあたしに意識させる。


「リンゴの味、さっきよりもずっとしたでしょう?」

「……。」

「僕は雪姫の味の方が甘かったんですがね。」

「リンゴの方が甘いに決まってるでしょー!」

「…リンゴなら、たらふく食べさせてあげますよ。キス付きで。」

「もう…お腹いっぱい。」


*fin*