「リンゴ味のキス、なんて…雪姫にはぴったりじゃないかな?」


突然呼び捨てで呼ばれたその名前が、前までと全く違うものに聞こえるのは…目の前の〝王子様〟が〝あたしだけの王子様〟になってくれたから…なのかな。


そんなことを考えていると、洸の指先があたしの唇をなぞった。


「な、なに…!」

「ほら、リンゴの味がするよ?」

「な、舐めろと?」

「噛みつかないでくださいね。僕の指は食べ物じゃないので。」


こんなに好き放題やられたんだから、噛みついても多分怒られないはずだけど…。
仕方がない、王子様はなんだか嬉しそうに笑ってるし。…あたしは少し諦めて小さく口を開いた。ゆっくりと洸の指が口の中に侵入してくる。不意に舌に、洸の指が触れた。


「あ、ほんとにリンゴだ…。」

「雪姫がもう少しキスしてる時に口を開けてくれたら、もっとリンゴの味がするんですが…。」

「はぁ!?」


経験はないけれど、想像することはできる。…そのキスが一体どのようなものなのか。


「い、いいよ!大丈夫!リンゴ、自分で食べれるし!」

「…そうですか。それは残念です。では、僕も僕のリンゴとお姫様を食べましょうか。」

「は…?」


反論も許されないままに、洸の唇があたしの頬に触れた。


「さっきからずっと頬が赤くてリンゴのようですね。中毒性もありますし、雪姫は白雪姫でもありリンゴでもあり魔女でもある。…一人三役とは大変ですね。」

「あ、あたしだってこんなキス魔が王子様なんて聞いてないわよ!」


そんなあたしの言葉はお構いなしと言わんばかりに、別の方の頬へとキスが降って来た。…本格的に、あたしを離す気はないらしい。