「っ…こ、こここ洸!」

「これ以上ないってくらい真っ赤ですね、雪姫さん。」

「な、ななななんってことを…!」

「だって僕たち恋人同士です。キスくらい普通です。」

「そ、そりゃそうかもしれないけど、こっちには心の準備とか…!」

「だからびっくりしてもらいましょうかって言いました。」

「…そうだけど…。」

「あ、リンゴ、落ちちゃいましたね。いつの間に落ちたんだろう?」


洸が立ち上がり、落ちたリンゴを拾う。そしてあたしに手渡した。


「あ、ありがとう。」

「どういたしまして。」

「も、もうリンゴ食べる!それで落ち着く!ちょっと離れて!」

「えー嫌ですよ。どうして僕が離れなくちゃならないんですか?さっきあったかいって言ってたの、雪姫さんの方じゃないですか。」

「それとこれとは話が別!」


そう言ってあたしはリンゴを一口頬張った。噛んで落ち着こう。うん。でも今の一口はちょっと多かった。失敗した。


「…雪姫さん。」

「なに?」


洸の方に視線を向けると、リンゴを持つあたしの右手を左手で優しく包んで、そのままあたしの食べかけのリンゴを自分の口に持っていった。
シャリっという音が聞こえると、洸はゆっくりと手の力を抜いて、あたしの手を定位置に戻す。


「あ、おいしいですね、このリンゴ。」

「ちょっ…あたしよりもいっぱい食べたでしょ!洸って口が大き…。」


言葉がいとも簡単に封じられる。それは、目の前の〝王子様〟が塞いでいるからだ。
さっきよりも長く塞がれて、驚きのあまり、唇が離れた瞬間にまだ噛み終わってないリンゴも含めて全て飲み込んだ。