お姫様の作り方

「雪姫さんのことは僕、ちゃんと見ているんですよ。だから気付きます。」

「……。」


何も言葉を返せない。何を返したら、どう返したら何が伝わるのかが分からない。頭の中がぐるぐるしている。考えなくちゃならないことがあるのに、今この瞬間にドクドクとうるさい心臓がそれを邪魔してくる。


「何を悩んでいるんですか?話してくれませんか?」

「…ちょ…っと待ってほしい。今、混乱してる。」

「そうですか。…では、待ちます。落ち着いたら話してください。」


洸の手があたしの手を優しく握り、引いた。


「ベンチにしましょうか?」

「…うん。」

「分かりました。」


ベンチまで手を引くと、まず先にあたしが座るように促す。あたしが座ると洸はいつも通りの小さな距離を取ってあたしの横に座った。
洸は、何も言わない。落ち着かない心臓を抱えたあたしは、必死で言葉を探す。


…無理、なのだと認めてしまえばいいのだと、ぼんやりと思う。
洸には隠し事なんてできない。隠していても見抜かれる。だって洸は見抜こうとしてあたしを見ているのだから。


どうして、洸は傍にいてくれるんだろう。笑ってくれるんだろう。
考えれば考えるほど答えは出ない。


「考えているのは、雪姫さん自身のことですか?」

「え…?」

「自身のことであれば、多少は自分で考えてみるということは必要かもしれませんが…。もし別の人のことであれば、というか自分以外の人のことであれば、直接その人に聞いてしまった方が早い場合もあります。他人の気持ちを理解するなんてこと、そう簡単にはできませんから。」


言われてみれば当たり前のことだ。洸がどうして傍にいてくれるかなんて、あたしが考えて一つの答えに辿り着いたとしても、それはあたしが思う〝答え〟であって、洸の〝答え〟ではない。


「…洸。」

「なんでしょう?」

「…あたしは洸に、何か返せてるかな?」