お姫様の作り方

「だって勝ち目ないじゃない、神谷くんに。」

「何に勝つわけ?」

「だから、恋に!」

「いまいち意味が分かんない。」

「だから!神谷くんは王子様でしょーがどう見ても!でしょ?」

「…まぁ、否定はできない、かな。」

「んで雪姫はお姫様みたいなもんでしょ!」

「…とは思わないけど。」

「頑固!意地っ張り!」

「どうとでも言って。」


洸は確かに王子様みたいだ。小さい頃に読んだおとぎ話に出てくる王子様を体現したかのような存在だと思う。見た目もさることながら、穏やかな表情だったり態度だったり、何でもできるところだったり…挙げだしたらキリがない。
それにひきかえ、あたしはやっぱり姫じゃない。見た目は、まぁ周りがそう言うなら多少なりともそういう要素はあるのだろうけど、中味はコレだ。大食いについては周囲に見せても思ったより何もなかっただけのこと。これだって洸のおかげだと言える。…感謝してなくも…ない。言ってないけど。


「ま、神谷くんが王子様みたいだって話はさておき、そろそろ気持ちは伝えてもいいんじゃないの、雪姫?」

「気持ち…?」

「なんで神谷くんの前だとご飯がおいしく食べれるかって、ちょっとちゃんと考えてみたら?」

「そうそう。今までたくさんのことを話してきて、嫌だって思わなかったからこうして続いて来たんでしょう?
せーめーて!感謝というかありがとうくらいは言ってもいいと思うよ?作ってもらったものに対しても、もっと色んな事に関しても。」

「…ありがとう…か…。」


そう言われてみれば、あたしはやっぱりかなり傲慢になっていたのかもしれない。
洸があまりにも当たり前みたいに傍にいてくれたりするから。あたしが距離を取ろうとしても、あたしが嫌に思わないように距離を詰めて、傍にいるから。


…少し、落ち着いて考えてみよう。


「次、サボる。」

「って言うと思った。はい、じゃあこれあげる。」


杏里に渡されたのはリンゴ。


「…なんでこんなの持ってきてんの?」

「おばあちゃんちから送られてきたからお裾分け。白雪姫へのプレゼント。もちろん毒は入ってないよー。」

「杏里なら毒入れれそう…。」

「あーそんなこと言う雪姫にはあげない!返して返して!」

「うそうそ!ありがたーくいただきます!」


あたしは杏里たちに笑顔を返す。そして右手にリンゴを持ったまま、教室を飛び出した。
…考えよう。まずはどうやって〝ありがとう〟を言うかを。