お姫様の作り方

* * *


「さて、ではアップルパイを食べましょうか。」


パカッと開いたその瞬間に、優しい甘さがほんのりと香る。見た目も香りもとても良くて、こんなものを一高校生が作れるものかと疑いたくなる。既製品じゃないなんて。


「…本当に作ったの?」

「そうですよ。父は最近忙しく、家で何かを作るってことはしませんね。母もお菓子はからっきしなんです。」

「そうなんだ…。」

「まずはどうぞ。」

「あ、ありがと。」

「あ、すみません。お皿とかフォーク、用意し忘れました。」

「大丈夫。手でいいよ。」

「でもちょっとボロボロいってしまうかも…。」

「そんなのはホントに気にしないから。落としすぎたら後で掃除する。」

「…そうですか。ではどうぞ。」

「…いただきます。」


まずは一口、先端から頬張った。
…不思議な甘さ。甘いんだけどしつこくない。洸の味はやっぱり…


「おいしい…。」

「良かったです。まだありますから、満たされるまでどうぞ。」

「うー…ほんっとおいしい…なんでこんなおいしいの…。」

「なんですか、その表情。そもそも悔しがる必要がないでしょう?」

「…そうだけど。なんか悔しい。」


もっとって思っちゃう自分が悔しい。胃袋を掴まれてしまったような感じもしないでもない。


「…おいしい…。」

「その顔がほしかったんです。」

「え…?」


洸はにっこりと笑顔を返しただけで、それ以上何も言わなかった。