お姫様の作り方

「杏里さんというんですか?」

「そう。」

「お友達ですか?」

「まぁ、…そんな感じ。」

「杏里さんは親切なのですね。」

「面白がってるだけだと思うよ。あたしと洸が目立ってるのを。」

「なるほど。ですが杏里さんのおかげで食事にありつけます。まずは雪姫さんの昼食をどうぞ。アップルパイは食後のデザートです。」

「…それは普通に嬉しいけど…なんなのこの状況は。」

「え?」


あたしと洸の周り2メートル以内に人がいない。のくせにひしひしと感じる視線。まさに色んな人が遠巻きに見ている状態だ。


「…完全にこの前のピエロ状態なんだけど。」

「今はそうですが、皆さんにも食事がありますし、最初だけです。面白がっ
ているだけです。」

「面白がってるだけって分かってるならなんで…!」

「僕もちょっと面白いなって思ってるんです。だからですよ。せっかくですからこの状況、楽しみましょう。食事も学校も楽しんだものが勝ちです。」


…上手く言いくるめられた感が半端ない。洸は言葉運びが上手い。


「お腹減った。」

「そうですね、僕もです。食べましょう。」


目の前に広げたのは自分のお弁当。隣の席に広がるのは…

「え、そんなに食べるの?」

「雪姫さんがそれを言いますか?」

「だって…。」


2段弁当(しかもお父さんとかが使っていそうな感じのちょっと大きめのタイプ)におにぎりが2つ。そんなに小さくはない。

「食べる方だと前に言いましたよね、僕。」

「…まぁ。ていうか前にパン食べられた時も一口大きいなとは思ったけど…。」

「逆に、雪姫さんはかなり無理をしてらっしゃるようですね。それでは少なすぎるんじゃないですか?」

「う、うるさいな!あたしだって別に…。」

「今日はアップルパイを少し多めに持ってきましたし、それで丁度良いくらいかもしれませんが。
…というか僕、まだ雪姫さんの限界を知りませんね。今度ジャンボサイズのラーメンにでもチャレンジしてみますか?」

「や、やだよ!」

「あ、スイーツ食べ放題の方が良かったですか?」

「そういうことじゃないってば!っていうかお腹減った!ごはん!いただき
ます。」

「…いただきます。」


白くて繊細な手を合わせて、洸が優しくそう言った。そしてゆっくりと箸を持ち、まずはほうれん草のおひたしに箸をのばした。