お姫様の作り方

* * *


翌日。朝ご飯をいつもより多めに食べてきたからこそ、何とかお昼までもった。ようやく待ちに待った食事の時間。…そう思った矢先だった。いつもとは違う〝トラブル〟が発生したのは。


「雪姫さん。」


一気にざわついた教室。教室の内外を問わず、この教室近辺の人間の注目はおそらくあたしと、あたしの名を呼んだ張本人で二分しているはずだ。


「…洸。」

「え、雪姫…なんで名前呼び…?」

「って神谷くんがなんで白雪さんに…?」

「もしかして二人って…」

「「「「「付き合ってんのー!?」」」」」

「違う!」

「違いますよ。お昼を一緒に食べようと思って来たんです。どこにしましょうか?」

「…ほら、やっぱり目立つって言ったじゃん。」

「今日持ってきたものを見ればきっと、そんなことは全てどうでもよくなりますよ。」

「え…?」

「これです。」


目の前でパカッと開いた、昨日のものよりもずっと大きなプラスチックケース。5切れ入っているそれは…

「これ…アップルパイ?」

「正解です。」

「え、神谷くん、お菓子も作れるの?」

「はい。お菓子を作るの、結構好きですよ。」

「すごいー!」

「神谷くんにできないことってないのー?」

「ありますよ。思い通りにいかないことだってたくさんあります。」


そう言って微笑む洸の視線があたしに向いた。…何故あたしを見る。意味が分からない。


「立ち食いはさすがに良くないですから、そうですね…あ、教室のどこか、お借りできます?」

「…ちょっと、この教室で食べる気?」

「そうですね。あまり移動するのも面倒ですし…。雪姫さんの席はどちらですか?」

「あそこだけど。」

「雪姫の隣の席、あたしのだから使って使って!」

「杏里!」

「あ、いいんですか?ありがとうございます。」

「この裏切り者!」

「なんでよー!じゃあごゆっくり、神谷くん。」

「はい。本当にありがとうございます。」


完全に杏里に裏切られた。…というか、杏里が本気で楽しんでいる。ニヤニヤと笑いながら、あたしに軽く手を振って教室を出る。その口が小さく『頑張れー』と動いたのをあたしは見逃していない。