お姫様の作り方

「…だから、さっきも言ったけど…。」

「人からその自分を否定されて耐えられるほど強くないと仰いましたよね。ちゃんと聞いてますし分かっています。ですから僕と一緒に、なんです。」

「…意味分かんない。」

「僕は雪姫さんを否定しません。それが一つ、小さな安心感に繋がっていると思っています。僕がいるから耐えてくれなんてそんな大それたことは言いません。ですが、こうやって内側に溜めこんでああして誰もいないところで一人、食事をしている雪姫さんを見るのは少し切ないです。
…だから、一緒に食べましょう。大丈夫です。量のことはさておき、食べている時の雪姫さんは本当に無敵です。」

「…なにそれ。」

「普段、あまり笑ったりなさらないことはちょっと見ていればすぐに分かりました。そのような時の雪姫さんはおそらくいわゆる『クールビューティー』と称されるものなのでしょう。実際、クラスの方も言ってましたし。
でも、好きなものを好きなだけ食べている時の雪姫さんは少なくともクールではありません。
ただ、素直に…可愛いです。」


また来た。真っすぐ過ぎる『可愛い』という言葉。
その言葉にいちいち反応してしまう自分は全然クールじゃない。むしろ子どもみたいで『可愛い』というべきなのだろう。…不服だけど。


「僕の作ったクッキーも美味しく食べて下さったし…。やはり自分の作ったものをあんな風に笑顔で、本当に美味しそうに食べてくださるのは嬉しいですね。言葉には表わしきれないほど嬉しいです。」

「…え、ちょ、ちょっと待ってよ。あのクッキー…作ったの?」

「はい。父がパティシエなもので、僕も幼いころからお菓子を作るのが好きでした。」

「え、ほ、ほんとにあれ、洸が作ったの?」

「はい。母も仕事に出ておりますし、一応一人で作りました。」

「…天は二物を与えずって嘘じゃない…。」

「最初からできたわけではもちろんありませんよ。徐々にです。」


既製品を移し替えて来ただけだと思ったら、最後の最後に思わぬ衝撃を喰らった。


「…寒くなってきましたね。送ります。」

「…大丈夫だよ。近いし。」

「もう少し雪姫さんと話がしたいんですよ。」


そう言って、洸はまた優しく笑った。それを断る気にはもちろんなれなかった。