お姫様の作り方

「…何なの朝から。ほんっとむかつくんだけど。」

「紫音が怒ってくれるから、あたし怒らなくて済んじゃった。…ありがとね。」

「怒っていいんだよ!むしろ何倍も怒っていい。怒りなさい。」

「…だって、怒るってより無気力になっちゃったんだもん。」

「え…?」


…もしかしたら、シンデレラがドレスを破られてしまったときの気持ちはこれに近いかもしれない、なんてことをぼんやり思う。
舞踏会に行けることになって、その時シンデレラはすごく幸せで。でもその幸せを一瞬でぐしゃっと握りつぶされてしまった、そんな感覚。


あたしの幸せは舞踏会に行けるっていうような大きなものではないけれど、でもあたしにとってはニヤけちゃうくらいには嬉しいことだった。
だから今日も学校に行くのが楽しみだった。…だって、会えるかもしれないから。
それ、なのに…。


「怒る気になんてなれないよ。ちょっと普通に…悲しすぎて。」

「舞…。」


全て拭き終って雑巾を洗いに蛇口を捻る。
冷たい水が余計に痛くて、我慢しきれなかった涙が一筋、廊下に落ちた。


…どうしてこんなことになっちゃうんだろう。
だって別にあたし、何も変わっていない。誰かにこんなことをされるようなことをした覚えもない。


変わったことと言えば、人に出会ったことくらいだ。
チャームを拾って届けてくれた、優馬くんに。


「…泣いちゃ、だめ…。」


泣いても、悲しみは消えないし原因だって分からない。泣いても何も変わらない。苦しくなるだけだって、頭ではちゃんと分かっているのに。


ぎゅっと絞った雑巾を戻して、席に着く。
教室で冷たい視線が刺さる。
あたしはガラスの靴を見つめた。…気持ちを奮い立たせるために。