「あと、すっげー嬉しかったんだ。俺を信じてくれたことが。」

「『俺を信じろ』、なんて今思えば傲慢なセリフよね。
…でも、疑おうなんて一瞬も思えなかった。信じる理由なんてないのに、…それこそ信じたいって思ったことが理由みたいだった。」

「俺は理由なんてどうでも良かった。あの時茉莉花が俺を信じて歌ってくれた。それだけで充分だ。」

「…私…は、ううん、私も嬉しかった。
あの時にすっと涙を流せたことも、それを受け止めてくれる人がいたことも。
『自由になれないはずがない。心は誰にも邪魔されない。』
あの言葉が私を支えてくれた。誰にも邪魔されない心で…由貴に会いたいって思った。
だからありがとう、由貴。由貴の言葉はいつだって本物。自由になれないはずがないわ。…だって私の心はこんなに自由で、だから由貴を…。」

「…お前、いちいち言い方がかっこいいんだよな。なんなんだよそれ。育ちの問題か?」

「べ、別にかっこよくなんて…。」

「…ありがとうなんて俺のセリフだって。
俺の音に反応して、こうして出会ってくれてありがとな。
…茉莉花のことが好きだよ、…大好きだ。」



すっと緩んだ腕に解放され、顔を見上げた瞬間に優しいキスが降って来た。
…今度はゆっくり瞳を閉じた。


瞳を開けると由貴が優しい顔をして微笑んでいる。


「…キスした後の茉莉花に…ちょっとハマりそう。」

「は!?」

「いやだって…ほらほっぺ赤いし。目も微妙に潤んでるし、身長的に当たり前だけど上目遣いだし、…抱きしめるといい匂いするし。」

「っ…な、何言ってるの!?」

「何って事実だけど?」

「はっ…離れてよっ…!べ、別にいい匂いなんてしないわ私!」

「茉莉花のお願いでもそれは聞けませんー。残り時間も少ないし、一緒にいられる時間は離さねーよ。」


そう言ってぐっと抱き寄せられてしまえば私に勝ち目はないことは、さっきの腕の強さで分かっている。
…でも、嫌だと思えないのだから振りほどけない。離れてなんて嘘だから。