「初めて恋をするなら自分で好きになって始めたいと思ってた。」

「うん。さっきの言葉、そういう意味だと思って理解してたよ俺。」

「…私は、恋をしたことがないから…だから今の気持ちがちゃんと恋としての〝好き〟なのかは分からない。だけど…。」

「…うん。」


きゅっと私の両手を上から握って、その言葉の続きを待ってくれる由貴にやっぱり私は勇気づけられるんだ。
真っすぐでいてくれるから、真っすぐでありたくなる。真っすぐに想いを伝えたくなる。


「…由貴のことが好き。会いたい、声が聴きたい、…こうして傍にいてほしいって思って、そう伝えたいって思うのは…生まれて初めて。
それは多分、由貴が私の言葉を真っすぐに受け止めてくれて、真っすぐに私を見てくれてるからだとっ…きゃっ…!」


ぐいっと腕を引かれて落ち着いた先には由貴のマフラーがある。背中に回った由貴の腕がぐっと私を抱きしめた。


「ゆ、…うき…?」

「びっくり箱みたいなやつだって思ったよ、最初は。」

「え…?」


ますます強く抱きしめられて息が苦しい。でもそれが嫌じゃない。
由貴の香りがさっきよりもずっと強く感じられてそれが少しずつ身体に馴染んでいく。


「本物のお嬢様なんてそれこそ生まれて初めて見たしな。2万のパンプス触るとかも人生初だった。びびった、あれ。」

「…顔に出てたわ。」

「だろーな…。
つーかお前の言葉一つ一つが鮮明に思い出せるくらいインパクト強くてさ。…まさか好きになるとは思ってなかったけど。
でも、お前と別れた瞬間からずっと引っ掛かってたんだ。どう考えても恵まれた環境にいて何不自由ない暮らしをしていて、それなのに俺を羨ましいっつったときの顔とか。
…あと、歌ったときの顔が焼き付いて離れなかった。
あん時お前、ものっすごい笑顔だったんだぞ?」

「え…?」


…それは知らなかった。そんなに笑っていたなんて。