お姫様の作り方

「なっ…神谷っ…!」


思わずその名を呼んだ。しかし当の神谷はもぐもぐと口を動かすばかりであたしの声には反応を示さない。
ごくんと飲み込むと神谷はまたしても笑みを浮かべた。


「それは食べているところを一方的に見られるのが嫌なのでしょう?でしたら、僕と一緒に食べましょう。」

「はぁ?ど、どうしてそうなるの!」

「食事をするならばその味も量も大切ですが、やはり食事の時間そのものを楽しむべきです。そのために言葉があります。」

「…屁理屈。」

「そんなことありませんよ。ですが僕の昼食は教室に置いて来てしまいましたし、これ以上雪姫さんのパンをいただいてしまえば雪姫さんの空腹が満たされません。ですから昼休みまではとりあえず、僕と話しませんか?」

「別に話すことなんて…。」

「雪姫さんにはないかもしれませんが僕にはあります。」

「…お腹、減ってるんだけど?」

「では僕は向こうを向いていますからどうぞ食べきって下さい。食べ終わりましたら呼んで下さい。」


その言葉通り、神谷はあたしに背を向けた。
…律儀な奴だ、本当に。そして…


「変わってんね、神谷洸は。」

「洸でいいですよ。神谷と名字で呼んで下さったのも嬉しかったですが、やはり名前で呼ばれたいものです。」

「…あっそ。」

「食事が終わりましたら、どうぞ名前で呼んで下さい。」

「…そういうとこも変。」

「そうですか?自分ではあまりよく分かりません。」

「…だと思う。」


あたしは手元にあるパンを見つめた。さっきの神谷洸の行動を反芻して、少しだけ頬が熱くなるのを感じる。
…さっき、このパン、神谷洸が食べた。つまり、このままあたしが頬張れば…。
…って違う違う。別にそういうことは意識する必要が無い。というかあたしばっかりが意識していてバカみたいだ。やめよう、これ以上変なことを考えるのは。変なのは神谷洸だけで充分だ。