お姫様の作り方

ギターサウンドが徐々に近くなるのを感じながら、私は走った。
冷たい空気が一気に肺に入るのは苦しかったけれど、そんなことも気にならないくらいに会いたい人がいて、会いたい音がある。


「っ…はぁっ…はぁっ…ご、ごめんなさい…こんな寒い夜に…。」


肺を刺激する冷たい空気にいつも以上に息が上がる。吸えば吸うほど苦しくて、呼吸が落ち着かない。


「だいじょーぶだいじょーぶ。ストリートなめんなって。こんくらいの寒さは慣れてるし、ギター弾いてたらほら、指は結構温かくなるもんだぜ?」


ふっと触れた由貴の手があまりにも温かい。温かく感じてしまうのはきっと、私の頬が冷たいせいもあるのだろうけれど。


「…ほんと…。温かい。」

「な?つーかまずお前こそ呼吸整えろ。」

「っ…うん…はぁっ…はぁ…。」


私の背をさする手は、魔法の手なのかもしれない。
コートの上からなんて、実際には何の効果もないだろう。それなのに少しずつ収まっていく。呼吸も、泣きたいくらい苦しかった想いも。


「収まってきたな。とりあえず、お前、もう泣いてねーみてぇで良かった。
会ってすぐに泣いてたらどうしようかと思ってた。」

「…泣いたら、嘘がばれるもの。」

「嘘?」

「猿田さんに嘘ついて送ってもらったから。制限時間付きの逃避よ、今日は。」

「ほえー…大変なんだなお嬢様って。」

「本人目の前にそういうこと言わないでよ。」

「悪ぃ悪ぃ。で制限時間付きってのはどういう意味だ?」

「言葉通りの意味よ。10時には谷口さんの家に迎えが来るわ。」

「タニグチさん?今度は誰だ?」

「クラスメート。クラスメートの家でお勉強会っていう体で送ってもらったの。」

「はぁーなるほどな。つまり、タニグチさんちにいると思ってるわけだ、サルタの野郎は。」

「…そういうこと。だから走ったの。」

「早く会いたくて、か?」


ニヤっと笑う顔に一瞬ムカっとしたけれど、でも事実なのだから「違う」とは言えない。
きっと由貴はそんな私の感情さえも見透かしている。