お姫様の作り方

「教室から飛び出す姿が見えたもので。隣のクラスだったのはもう少し前に分かっていたのですが、なかなか話しかけるタイミングが…。」

「今や学校一の人気者だもんね、神谷洸は。」

「やや刺々しい言い方ですね。人気者なのは雪姫さんの方でしょう?」

「…別に人気者じゃない。この見た目がそれなりに好きってだけでしょ、多分。それに好きって言っても別に特別な感情としての〝好き〟ではない。
鑑賞用なの。ただそれだけ。誰も踏み込んでは来ない。」

「…踏み込みたいと思っている僕が踏み込むことは、許してくれるんですか?」


神谷がゆっくりとあたしの隣に腰を下ろした。あたしに視線を向けながら口を開く。


「雪姫さんの魅力は…もちろん綺麗な容姿もそうですが、それだけじゃないですよ。」

「なっ…あ、あんたに何が…。」

「今はたくさん挙げることができませんが、容姿以外に…そうですね、美味しそうにたくさん食べるところも可愛らしいですし、表情がコロコロ変わりますよね、意外と。」

「っ…別に変わんない!ってゆーかここに来ないでって…。」

「それは約束できないと言いました。」

「約束してくれないと困る!」

「何故ですか?」

「…嫌だから。」


思いの外小さな声になってしまったのがらしくなくて嫌だ。それでも、その感情を汲み取りたいとでも言いたげな神谷の表情は優しい。


「何がです?」

「…人前で食べること。」

「それは僕の前でも、でしょうか?」

「誰かは問わない。」

「そうですか…じゃあ。」


ぐいっと一瞬、ピーナッツパンを持っていた手を引かれる。
大きな口がパクリと食べかけのパンを頬張った。