* * *


「風邪でしょうか?」

「不注意だったわ。ごめんなさい。」

「いえ。帰ったらすぐお休みください。」

「ええ。」


窓から見る景色もいつもと同じだ。
どうしようもなく空虚で退屈。



…だと、思っていた。それなのに。





「え…?」

「どうしました、茉莉花お嬢様。」





車が信号で止まった。通り過ぎた風景が、明らかに違った。



たった〝一人〟が、強い力を放っていた。
私の求める自由を身体中で音に変える人間が…いた。



信号が青に変わった。









その瞬間、私は何の躊躇いもなくドアを開け、歩道に飛び出した。