彩乃ちゃんも何事かと思ったのか来た。

「いいですけど、しばし、お待ちを。」

ポケットの中に突っ込んだはずよね。

あれれ、ゴソゴソポケットの中に手を

突っ込んで探すあたしにサユは呆れ顔だった。

「わーい、ひよっちのリップだ。」

「ここに入れたはずなんですけどね。」

カーディガンのポケットだったかしら?

ブレザーの中にはそれらしきものを発見

出来ずにスカートのポケットに手を入れる。

「で、でも、あたしのでいいのですかね?」

サユとか彩乃ちゃんに借りた方が良いのでは

なかっただろうかね!

ほら、あたしのリップとかお貸し出来るような

可愛らしい銘柄でもない。

甘い香りがするような女の子っぽいものでもない。

ピンクや黄色水色やカラフルな色でもない。

「ひよっちが貸してくれるんでしょ?」

「あたしので良ければどうぞです。」

一応、冬の季節だから乾燥対策には念を入れてる。

毎年、お世話になっている保湿系のグッズ。

これがなくては冬を越せないのである。

ポケットからはいっと取り出してクルミちゃんの

前に差し出したのは皆さんもお馴染みの濃い緑色

と白い文字の可愛げゼロのお買い得だったお得商品だ。

見た目通り、塗った後スースーするメンソレータムの効いた

薬用リップスティックである。

でんとあたしの手の平に転がるメンソレータムさん。

「・・・ぶっ」

クルミちゃんだけではなく、彩乃ちゃんですら笑いを

必死に堪えているご様子だ。

「日和、それよく使ってるよね。」

サユは毎年のことだから何の不思議もなく、

メンソレータムさんを見下ろしている。

「メンソレータムさんを笑っちゃイカンよ!

このお方をどなたと心得る。」

印籠のようにメンソレータムさんを掲げると、

クルミちゃんはツボのようだったらしくしばらく

クルミちゃんの笑い声が教室に響き渡った。

朝から迷惑な話であるが、クラス内が賑やかなので

それほど気にされなかったと思われる。