「お前、餅みてぇだよな。」

なっ、なんて恐ろしいことを口にするんだ。

あたしの頬を見つめるちぃ君に冷や汗を浮かべる。

「お餅だなんて失敬な!」

ビヨーンと頬を引き伸ばされてほっぺたが

落ちてしまいそうになるかと思った。

「いひゃいいひゃい」

笑いを堪えようとするならしないでもらいたい!

失礼にも程があるわ。

乙女の誇りを弄ぶなんて酷い男ね!

あたしのスキンケアを見縊らないで欲しいわ。

あまり大したことしてないとは言え、

そんなに引き伸ばしたら元に戻らなくなる!!

「お汁粉楽しみだな。」

「ちぃ君にはなしです!」

なっ、大魔王出すのは卑怯だ!

そんな手に乗るものか。

あたしの心の傷に比べたらお汁粉の1つや2つ

食べられなかっただけでその不機嫌さ。

「お汁粉作れよ。」

「はい、畏まりました。」

屈服された気がして何だかイラっとするわ。

でも、しょうがない。

ちぃ君に大魔王になられても困る。

秋は夕暮れ冬の季節の足音を鳴らして、

ゆっくりと幕を閉じる。

4月よりもずっと進んできた晩秋の候。

そろそろ、近づく冬に向けて対策を練り始めよう。

寒さに弱いあたしでも何とか乗り越えていけるだろう。

やがてやってくる春が来る前にもう少し待って。

時間よ、もう少しゆっくりと進め。

やっぱり、一歩進むごとに見えてくる景色は

違って見えるからあたしは進み続けることにします。

立ち止まることよりも前に進み続ける方があたし

らしい気がするからこの選択に間違いは無いはず。

目指す道はまだまだ途方もなく長い道のりだと

思うけど、直向きに歩き続ければいつかたどり着くはず

だと信じているから頑張れる。

「ちぃ君、方向間違ってませんか?」

「やっぱり、大福食べたくなった。」

―――――――出来ることならまだ傍に居ることが

許されるだろうか?

時間よ、止まれ。

楽しいことはあっという間に過ぎて現実に

引き戻される。

それまではどうか夢よ覚めないで。


―――――Hurly-Burly 3 【完】