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伊織君が手を差し出してきた。
こ、こ、これは何のドッキリチャンスだ!?
人を何度も騙そうだなんて甘いわ!
「な、何だこの手は?お手はしないぞ!
あたしは犬ではなく女の子なんだからな!」
伊織君が呆れたような顔であたしを見ると、
これでもかってぐらい盛大なため息を吐かれた。
いや、あたし間違ってない返しをしたつもりだったが
何か間違えてたと言うのか!?
「全く、ウチのお姫様は疑い深い上に、
ぶっ飛んだ勘違いしてくれるもんじゃねぇ~か。」
「おひ、おひめ、とちおとめ・・・」
いちご食べたくなっちまったじゃないか!
ウチのお姫様って顎が外れます。
「いお、伊織君!?」
「何だよ、見惚れちまったか?」
ホストにでも就職すればいいよ。
そしたら、ナンバーワンになれちゃうよね。
「それで、どうします?」
まるで、お伽話に出てくるワンシーンじゃないか。
手を再度差し出してくる伊織君。
ふわりと漂う煙草の匂いは後で文句を言って
やろうかと思うけど、こ、これは手を出すべきだよね。
そっと伊織君の手の平に手を遠慮がちに置く。
「か、かぼちゃの馬車はいつ登場するんだ!?」
「じゃじゃ馬姫にかぼちゃの馬車は出せねぇ~な。」
「な、何だと!?」
「今は俺で我慢しろ。その内出してやろうじゃねぇ~の。」
伊織君がブレザーを脱いだ。
い、いきなり何してんだこの破廉恥さん。
フェロモンしまえや!!
前ボタンから見える胸板にドギマギしていると、
ふわっと肩に何かかかった。
「伊織君、意外と優しいところあるじゃないさ。」
「意外とじゃねぇ~だろ。」
秋晴れの空からお日様がこんにちわする午後の部が
今から幕開けです。