そりゃ、もうやるっきゃなかった。
ロッキーのテーマソングが掛かった時点で
あたしは本気の走りを見せた。
エンジンをかけて走るあたしの足の速さは
自分でも思うが、早い方だと思う。
ぶっちぎりの1位でスタートダッシュを決め、
そのスピードは衰えることなく半周すると、
赤の先輩たちがどわっと声を張って行け行けと叫ぶ。
ここまで来ると気持ちいいほど爽快だった。
陸上部の人はいつもこんな感じなのかしらと思いながら、
2位との大きな大差を作って佐藤選手にバトンを繋げた。
佐藤選手は非常に良い走りを見せた。
それはもう女子生徒の声が半端なくて、佐藤選手を追う
2位以降は耳を塞ぎながらと言った具合だった。
ふと屋上をチラッと見上げると、ユウヤが恥ずかしげも
なくピースサインを送ってきた。
ユウヤには自重という言葉を覚えさせよう。
誰も屋上にみんなが居ることを知らない。
あたしも何か返すべきかなと思ったが、
しかし思いつかない。
ピースサインにはピースサインを返すべき
なのかと討論を開始しようと思ったら、
「立花っ、お疲れー」
ハイタッチをしてこようとする佐藤選手に
ビクッと肩を揺らせる。
この男、恐ろしいほどの無自覚だ。
周りの女子の威圧に耐えきれる自信がありません。
素早くハイタッチを交わして、逃げるように
佐藤選手から遠のいた。
佐藤選手はしばらく首を傾げたままだった。
あたしはまたチラッと屋上を見上げる。
ナル君がものすごいブラックオーラを出している。
ど、ど、どうしたと言うんだ!?
この一瞬でどんな悪魔に乗っ取られたのだ!!
1人パニックしながら屋上へとジェスチャー
でもしようかとトチ狂ったことを考えるも、
誰が見ているか分からないしと考えを改め直し、
しばらく不評が続いているが致し方ない。
ここは腹を括ってやると自分に喝を入れ、
屋上へと笑った。

