「あたしは今更甘えたり出来ない。」
物心ついた時から自分のことは自分でやる。
他の人に迷惑かけるような子にはならない。
それがあたしのモットーだった。
今更、甘える女に成り下がるつもりはない。
可愛さならナル君が居るから十分だ。
そんなものはあたしに望んではいけないと思う。
「・・・どうしたいいか分からない。
勝手に体が動くし、誰かに頼ることが出来ない。
頼るぐらいなら自分で何とかしてやろうと思うから
慶詩の理想像から離れたお友達になってるかもしれない。」
みんなのように目の見えない絆もあたしにはない。
歩んできた道も違えばこれから進む道も違う方向に
行くであろうことは明白で、たった高校生活3年間っていう
短い期間の関わりかもしれない。
ざわざわと風が音楽を奏でるように吹く。
相変わらず、慶詩の背中はポカポカ温かい。
強引なようで優しく負ぶってくれている。
いっそのことあたしも簡単に人に頼れる
ような神経だったらさぞかし良かったのかもしれない。
「だけど、お友達はやめたりしないよ。
こんなあたしで文句あるならいくらでも言えばいいさ、
あたしは自分の考えを曲げるつもりはない。
頼ったりしてあげないしね、精々あたしが
頼もしい女だってことを思い知ればいいしね、
絶対に言ったりしないんだから。」
悔しいほど的を当てた慶詩に八つ当たりしたくて
も今は全身に力が入らない。
「あ゛?お前、相当生意気言いやがったな?」
「小粋なことだと言ってくれたまえ。」
優しさに甘えてしがみつく自分に決別しよう。
あたしには十分甘えられた環境があったんだ。
“あの人”が居ない今あたしは前よりもずっと
強くならなきゃいけない。
「七面倒なことグダグダ考えてねぇーでさっさと
諦めて弱音吐くことが恥ずかしいことだとは限らねぇ
んじゃねぇーの?」
慶詩の癖に何であたしがこんなしんみりしなきゃ
ならないんだよ。そんなこと言うな。
何てあんたはズルい男なんだ。
弱さに漬け込む男の本性を垣間見たぞ。

