慧くんの部屋に連れて来られた私は、
視線の置き所に困って、部屋に入った所で立ち止まった。
「どうした?」
「あ、……ううん」
別にどうってことないのに。
日本にいた時だって、いつも2人きりだったのに。
何だろう?
他者に対しても母親に対しても
至極ストレートに態度に示す彼を見て正直動揺する自分がいる。
同じ家の中に彼の母親がいるんだから
どうこうなるって問題じゃないだろうに。
『フィアンセ』という言葉を意識して?
『婚約』ということが脳裏を掠めて?
数か月後に、さっきの物件で彼と2人で生活するかも、だから?
……たぶん、全部だ。
頭では分かっているつもりだったけど
いざ、行動に移し始めて気付かされたんだ。
これらの先に、『結婚』があるかもしれないと。
別れずに何年も一緒にいたら、たぶん、そうなるんだろうけど。
まだ17歳という年で、現実味から隔離されてる気がしてた。
彼の隣りに腰掛けると、ふわりと長い腕が体に回された。
「不安なことがあるなら、何でも言っていいぞ」
「へ?」
「私、不安だらけなんです……って顔してる」
「っ……」
「絢の脳みそ、駄々洩れだから」