『どうして一条さんのオニオンスープが……ここにあるの?』



 オニオンスープなど、フランス料理では定番中の定番だ。似たような味があってもおかしくない。


頭の中でそう思いながら、自分も知らないレシピを知っている誰かがいるかもしれないと思うと堪らない気持ちになった。



『ああもう! やめやめ! 考えすぎ! 今日の私は絶対どうかしてる……』



 食欲が一気に低下して、結局奈央はひと口ふた口前菜を食べた後、明日も仕事が早いということを口実に紗矢子のマンションを後にした。




『何考えてんだろ私……こんな私は嫌い』




 今までに何度も一条から愛を囁かれたにもかかわらず、奈央の心は渇水していた。