「紗矢子、また来ていたのか」


「一樹……」



 一樹と呼ばれた男がテーブルに今にも突っ伏しそうな紗矢子の横へ座る。



 高身長に見合った高級感溢れるスーツを品よく着こなし、煙草に火を点ける仕草に思わず見とれる。



 斎賀一樹は紗矢子が足繁なく通う「noir」のオーナーで、週に一度紗矢子と会っては彼女の相手をしている。



「どうした? 今日はやけにペースが早いな」



「仕事がうまくいかないのよ」



「ふっ……嘘をつくな」



「……」