数時間前―――。



 今日朝礼が終わると、三井と昨日ぶつかってきた後輩二人が一条に呼び出された。


「……」



 一条は無言で二人を見据えている。


 二人は言い訳もできないくらいにすっかり怯え切っていた。




「従業員の背後を通る時、なんていうか忘れたか?」




 キッチン内では必ず危険回避のため、人の背後を通る時は一言derriere!<後ろ!>と声かけするのがアルページュの基本になっていた。



「お前ら二人、今週掃除当番な」



「え? 俺もですか?」



 慌てて三井が抗議する。


 するとぎろりと一条の鋭利な目つきが三井を射抜いた。



「や、やります!」


 事の経緯を聞いて奈央は少々気の毒に思いながら、今夜は紗矢子と食事に出かける約束をしていて、時計に目をやると時間が迫っていることに気がついた。



「お手伝いしてあげたいんですけど、すみません。明日一緒に手伝いますから」



「ほんとですかぁ~春日さんが女神に見える!」




 奈央は愛想よく笑うと、エントランスへ急いだ。