家元の寵愛≪壱≫



花見宴が催されるのは、

紫錦庵(しきんあん)と呼ばれる茶室がある寺院。

その寺院の庭園で茶会が開かれる。

屋外でする茶会を野点(のだて)という。



会場に到着すると――――、


晴やかな青空の下、

敷地内には色鮮やかな花々が咲き誇っている。


あまりの美しさに見惚れていると、


「ゆのちゃん、行きましょう?」


お義母様に声を掛けられ、再び緊張が走る。



寺院の庭園には

1段高く盛られた大きな床几台(しょうぎだい)

赤い絨毯が敷かれたその場所に

隼斗さんが正座していた。



庭園を彩る木々の周りにも

幾つもの床几台が設けられ、

お客様はその花見の席でお茶を戴く。



襲名披露の宴では、

しきたりに則り、ごく限られた人のみ。


けれど、今日の茶会は

春の花見に訪れたお客様1人1人に振る舞われる。


一般の方に初めて“家元”として立つ事の重大さ。


背中から伝わる緊張を感じ取って…。